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2012/07/25

映画『おおかみこどもの雨と雪』を観て



『しっかり、生きて!』


『時をかける少女』『サマーウォーズ』の細田守監督最新作、そして彼が立ち上げたアニメ制作会社スタジオ地図の処女作。

いやぁ……家族ってホントいいもんですね!by晴郎

最近ホント家族もの親子ものにめっぽう弱いtataです。
滅多に泣かないどころか感情も表に出さないくせにCLANNAD見て号泣しただけはある。

都内の大学で出会った男に恋をした花。男が"おおかみおとこ"だとわかってからもその気持ちは変わることなく、2人はやがて結ばれ、雪の日に生まれた『雪』と雨に日に生まれた『雨』の"おおかみこども"の2児をもうける。貧しくも幸せな生活を送っていた4人だが、父である"おおかみおとこ"の突然の死によってそれは奪われてしまう。打ちひしがれながらも前を向き『ちゃんと育てる』と笑顔の決意を見せる花。雪と雨の2人が『人間か、おおかみか』どちらとしても生きられるようにと引越しを決意する。

物語は、花とおおかみおとこの出会いのラブストーリーを描く前編、山間の村落の中で2人を育てながら母として成長していく花を描いた中編、そしておおかみこども2人の成長を描く後編、と大きく3つに別れてます。別れてはいます、が、異なるテーマの3編を一つの映画、一つのお話として綺麗に纏め上げられているのが本当に素晴らしいですね。
実際の人生のように、幾重ものストーリーが折り重なりながら、美しい連続性を持って紡がれていく様は、きっと見る人によって違った発見をもたらしてくれることでしょう。
自分としては歳も近く、全編に渡って描かれる花に感情移入しながら見ていました。 同じ上映を見ていたお客の中には小さなお子さん連れもたくさんいました。雪や雨に自分を重ねながら見るこの物語はどういうふうに見えるのでしょうね。是非色んな人に楽しんでもらいたい作品です。



前編の都会での暮らしを描いたシーン。これまでの細田監督の作品もそうなんですが、人物の描写に陰影を用いず、あまり立体的には描かないんですよね。だから見始めるとものすごく『うすっぺらく』見えるんですよ、タンパクというか。都会の中で没我する人々を描いた……と言えばそうかもしれないですが、でも周りの背景はリアルにしっかり描かれているので、平面な人物たちは浮き上がって、逆に強調されて見えてくるんですよね。実にニクい描写方法ですね、奉太郎も羨む省エネ技術。
都会から山奥での生活へ舞台が移るとこのタンパク描写がより一層際立ちます。山の鮮やかな緑や木々の色、空の青さは、その上にぺたんと置かれた肌色を実に美しく際立たせます。その肌色のキャンバスに描かれる花の力強い笑顔や、雪や雨の天真爛漫な笑顔がまた映える映える。

そしてその美麗に描かれる背景美術そのものも必見。最新のCG技術を駆使して背景画が動くというトンデモテクノロジー。一枚絵の上にCGモデルを載っけただけだとあからさまな質感の違いが目立ってしまいますが、背景画を細かく切り抜き3DCGにはめ込む、動く際の誤差は手書きで補正、という気の遠くなるような作業を行なっているそうです。それによって実に生き生きとした自然がスクリーンいっぱいに広がる気持ちよさ!
卓越した自然描写というとスタジオジブリの宮崎駿監督と男鹿和雄さんのタッグが思い出されます。『トトロ』なんかはその最たる例ですよね。ジブリでは徹底した手描きによって細部まで美しく表現することにこだわっていますよね。今回細田監督(と美術監督の大野さんとCGDの堀部さん)が最新のCG技術を盛り込んで先人の偉業に肩を並べ、新たな表現にも挑戦した、というのは正に"ポストジブリ"の一翼を担うと評される証でもあるのかもしれません。

ここからはちょっとストーリーに沿って追っていきますので、ネタバレに関する部分には色を変えてあります。


前編での見所は、おおかみおとこを目で追ったりデートのために精一杯のおしゃれをしたり幸せな毎日にくしゃっと笑ったりする花の清貧な可愛らしさでもあるのですが、やはり、おおかみおとこの死のシーンが強烈な印象を残しています。川に横たわる変わり果てたおおかみおとこの姿。清掃員が引き上げ袋詰めしゴミ収集車に投げ込まれる。花が駆け寄ってもとりあってくれず。一切のセリフがなく、降りしきる雨の音だけが響くタンパクな演出は、心に余計に重くのしかかります。
2人の幼子を1人で抱え、おおかみこども故に周りに協力を仰ぐこともできず、心が折れかける花。でも『任せて』と笑った花を見て、『あぁ母とはなんと強くたくましく美しい存在なのだろう』と心を打たれました。
この後、前・中編を通して花の母親としての成長を描いている……そうなのですが、自分はあまりそういうふうには感じませんでした。先も述べた『母としての強さ』は花という女性が生まれ持っている素質なのではないかと。おおかみおとこに出会う前も、出会ってからも、失ってからも、変わらず一人の女性として生きる花の強さには一貫したものがあるように感じました。
これは持論なのですが『女性は生まれ落ちた瞬間に完成している』と常日頃思っているんです。女の子として生まれてから、何の手を加えずとも、大人になり、母になる力を持っていると。きちんと躾けて導いてあげないと大抵碌な大人にならない男とは絶対に違うんですよね。女性には頭があがらないなぁと思うわけです。

この点は姉の雪と弟の雨にも見て取れる部分があるように思いました。
花自身、「人間かおおかみかどっちでも選べるように」と決意したことからも、こども2人を1人の人格として尊重し、押し付け育てるようなことはしないというスタンスをとっています。

やんちゃで自由奔放だった幼年時代を過ぎて、初めて人の世界に触れた時、周りの友達との関係を大切にし、人間として生きようと思い始める花。"おおかみこども"という秘密に気づかれそうになって拒絶し、傷つけてしまった草平に、嵐の夜に秘密を打ち明けるシーン。窓越しの風雨に晒されながら決意する雪。表情は不安に怯えながらも、初めて母以外の人に心を寄せ、大人への階段を登った雪の姿はとてもとても綺麗でした。可愛らしい少女の象徴だったワンピースには、淡い色気を感じさせる女性らしいラインが(それこそいつのまにか)表れていて印象的でした。大人のおおかみおとこですら季節が移り変わるほどの時間を躊躇った告白です。雪の女としての強さに感動せずにはいられません。それを真っ向から受け止めた草平にもあっぱれ。母子家庭に育ち再婚に揺れるという決して楽でない環境に育った彼もまたたくましく育っていたのでしょう。いい男に育ちました。

一方の雨。引っ込み思案で内気な雨は、小学校に入っても人社会に馴染めず、休みがちになってしまいます。そんな彼を導いてくれたのは山の主である"先生"でした。野生という厳しい環境で過ごすうちに彼もまたたくましく成長していきます。ラストシーン、怪我をした先生の後を継ごうと言葉も無く立ち去ろうとする雨。「まだ何もしてあげられてないのに」と雨を止める花の言葉にはっとする雨。しかし立ち戻ることなく、狼の姿で山を駆け上がった雨は、遠く深く咆哮しますその遠吠え声のなんとたくましいこと!かつて雪とじゃれあいながら甲高い声で可愛らしく吠えた声とはまるっきり異なる成犬の声。きっと花もその声に、雨が一人前の"狼"として成長したのだと確信したのでしょう。しっかり生きなさいと背中を押す、そんな花の強さを感じたシーンでもありました。

雨が去った後、その雨に濡れた山々を『洗いたての…』と表現していたのが実に印象的でした。劇場で見ていた自分はとっさに『洗礼』の言葉が浮かびました。自分たちの世界を見つけ、それまでの自分から新しい自分に生まれ変わった雪と雨。この映画の中で一番綺麗で美しい、大好きな瞬間ですね。



さて、本編のストーリーとは少し外れますが、中編は言わば『農業編』でもあることに農学クラスタとしてはひと言申しておかなくてはなりません……!(←何様)
山間のボロ屋に引っ越して、荒れ放題の裏の畑で自給自足をもくろむ花。手当たり次第に挑戦するも尽く枯らしてしまい途方に暮れてしまう……何年も荒れ放題だった耕作放棄地だぞ、なぜ土づくりの過程をすっ飛ばすんだ!と心で突っ込んでた私は生粋の土壌学専攻( ー`дー´)キリッ
なので後に韮崎のおじいちゃんが仏頂面で指南する様は待ってました農家のおじいちゃん!の心境でした。『土からやり直さなければダメだ』のセリフにキタ━━━━(゚∀゚)━━━━ッ!!と(笑)
細川と山岡の農家じいさんコンピもいい味出してましたね。うん、若いおねえさんに対する農家のおじいちゃんってああいうイメージです(笑)
こういう風に感じることができたのも、農作業にも力を入れてしっかり描写していたこの作品だからこそのものなのかもしれません。韮崎のおじいちゃんを演じたのも、実際に農業に携わっている菅原文太さんだからこそ、あの無骨で厳しい味のある雰囲気を醸していたように感じました。


声優さんで思い出しましたが、花役はあの宮崎あおいさんが演じています。明るくも初々しくも、芯の通った張りのある声が花という人間に良くあっていました。悠木碧さんの声に似てるなぁと聞いてて思いました。好きなんですよ、こういう感じの声質。女の子らしいというか。

昨今のジブリもそうですが、声優さんを起用しないという方針には色んな目的があると思います。話題性だったりメディアの露出を狙ってとかもあると思うのですが、抑揚の強過ぎない演技というのも重要なのかなぁと感じます。我々がこよなく愛する(笑)声優さんの演技はやはり独特のものがあって、現実で話す私たちの声とは明らかに異質ですよね(それはそれで魅力的なのは言わずもがな)。ただこういう登場人物への感情移入をもたらしたい時には、より自然な発声に近い俳優さんの演技があっているのかなと感じました。
ただ声優もアニメの世界を担う重要なファクターであるので、もっと上手く組み合わせて起用してほしいなと思いますね。今回脇役として豊かな顔を持った農家組を演じたのは、吹き替えやアニメで実績のある超大御所声優さんたちでしたもんね。色んな相乗効果の可能性を、いちアニメファンとして楽しみにしています。



さて、例にもまして大変長くなってしまいましたが、この辺で。余計な話に脱線したりするからこうなるのだよ。でも別にプロライターの出版物ってわけでもないし、日々と思考を紡ぐのならこのぐらい雑多な方が後で見返して面白いかなと思ったり。これからも通常運行で行こう。



アニメ公式サイト
  
おおかみこどもの雨と雪 (角川文庫)おおかみこどもの雨と雪 (角川文庫)
細田 守

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