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2012/03/04

川口盛之助『オタクで女の子な国のモノづくり』を読んで+α

書評第三弾。
っても読み終わったのは半年以上も前なのですが、その辺の筆不精っぷりについては以前のエントリーに書いた通りなので省略。 当時新聞を読んでいてもちょっと関連した気になる話題が増えていたので、自分の考えも付け加えてまとめておいた……もの(言わずもがなですが半年前)に、先日参加した文化庁メディア芸術祭のシンポジウムを聴いて感じたことを加筆する形で紹介したいと思います。

そんなweb押入れの中で眠ってた今回の本はこちら。







日本のモノづくり産業が世界に比べていかに特徴的であり魅力的であるか、を世界的な戦略コンサルタントファームに務める著者が解説した書籍。日本が世界に送り出している、繊細で、高性能で、こだわり抜いた製品の数々を、日本の文化、特にオタクやギャルといったサブカルにスポットライトを当てて論じる、という珍しい本。でも内容は実に言い得て妙、目からウロコの連続です。

内容に関しては、2007 年発行の書籍であるので、幾分情報が古いか?という感じは否めません。リーマン・ショックや現在のような先進国の低迷と中国の台頭に関してはあまり含まれ ていません。ただ現在の状況を鑑みて外したことを言ってるかといえば全くそんなことはありません。流石は超一流の経営コンサルタント。流行り廃りに影響さ れることのない、日本が絶対的にもつ強みと魅力を存分に語っています。

この本を知ったのは就職活動を通して。経営コンサル会社を片っ端から受けていた自分は、もちろん川口氏が在籍するこの会社も受けており(あえなく不採用くらいましたが……) 、この会社を調べていくうちに社員紹介のページで、この気になるタイトルを発見したのです。だって外資系企業の人間が『オタクで女の子な』ですよ?これは手に取らずにはいられないってんで早速購入しました。

読んでいると単純にとても元気が出てくる。「日本は世界ではもう戦えない」なんていろんな所で耳にするけど、本当はそんなことはない!日本の戦えるフィールドがあるんだ!というのを大いに自覚することができる。そしてそんな日本に生まれたことを誇りに思える、静かな語り口ながら、そんな力強い思いを抱かせてくれる本です。これから社会に出ようという自分にとっては尚更やる気が出てくる。





さて、

近年のこういった"特徴的"な日本製品の数々はワールドスタンダードからはかけ離れた、所謂『ガラパゴス』として揶揄されがちです。本書の終盤でもこの『ガラパゴス』の指摘は登場します(むしろ2007年当時既にそう呼ばれていたことが驚き)。

日本という閉じた市場での競争を優先するあまり、世界には見向きもされない製品を作り出してきたことを反省し改めろ、という『ガラパゴス批判』の論調がもっぱらですが、「それは果たして本当にそうなのか?」という純粋な疑問があります。

(※ここまでが半年前に既にまとめてあった部分です)

言い換えれば「日本のガラパゴスは本当に世界競争に勝てないのか?」と。

例えばガラパゴスの主戦犯みたいに言われた日本の電機業界。確かにAppleやSamsungなどの巨大資本相手に世界で頂点を取ろうとするならば、それはなかなか厳しい戦いになるかもしれない(現にかなり難しい)。国単位で考えた時に、

国内で業界企業の主軸が乱立→主戦力の分散→低クオリティ化?競争からの敗退?

という流れは確かにあるかもしれない。技術・資本の集中とか規模の経済とか。特にSamsungみたいな強力な国のバックアップを受けた企業には太刀打ちできない部分があるに決まってる。

ただそれは本当に向かうべき方向なんだろうか、ってのが自分の考えです。

これから先、というかもう既に、何か1つの巨大な価値観をひたすら支持していればいいという時代ではないという風に感じています。
周りを見ても、あるいはwebを覗いても、個人個人が好きなものを好きと言い、価値観を共有できる人と繋がる、そういうニッチな価値世界のネットワークがあっちこっちに生まれ在るような現在。
少し抽象的過ぎかもしれませんが、こういう時代においては、多様な価値観が共存する=ガラパゴスこそがより適しているんじゃないかな、って気が。
量の拡大(多様性の確保)はその次の世代の将来的な質の拡大につながっていく、って直感的に正しくも思えるし。



ある価値観が成功するとわかっているならそこに注力するのは決して悪くないことだとは思います。

例えば日本のガラケーが世界でけちょんけちょんだから頑張ってiPhone作ろうぜ!という考え。Samsungなんかは完全にそれを実行していますよね。それもある意味凄いんだけど。
先の成功を参考にすることはいいことだと思うけれど、それが本当に次に繋がっていくかはわからない。確かに今iPhoneは一時代を築いたけれども、それって流行りみたいな部分があると思います(いやiPhone自体はとてもいいマシンだとも思うけど)。流行の技術というか。
極端なことを言えば、みんながみんなiPhone作れ!で必死で作ってみた、そしたらiPhoneの時代が終わっていた、みたいな。こうなった時に次のトレンドを生み出すのは、iPhoneの後追いに必死だった企業ではなく、iPhoneを既に持っているという余裕があったApple以外無いよね?→以下繰り返し、みたいな。

次の時代に今の評価がそのまま続いているかはまた全く別の話。「何が評価されるのか」「どの価値観が"越境"するか」はわからない時代だ、というのを件のシンポジウムで聞き、はっとしました。このシンポジウムはキャラクター文化に関してのお話だったんですが、まぁオタク文化ってことでオタク繋がりで今回の話に結びついたって流れなのでした。



結論を言うなら、


多様性?ガラパゴス?いいじゃない、だって日本だもの。


って感じでしょうか。もっと自信持ってやりましょうと。自分はこの日本のマニアックな科学技術は凄く好きです。夢が、ロマンが、あるんですよ!(たぶん)

それになんとなくですが日本で一極集中型は辞めた方がいいと思うんですよね。既得権益化して腐敗するような気がしてならない。夢も、ロマンも、ないんだよ。




という訳で長くなりましたが、ようやくこのエントリに陽の目を見させてあげることができました。
しかし読んでる途中でわかったんですが、著書の川口さんはこの本の後継(?)とも言える新刊を出してましたね。機会あったら読んでみたいですね。





"made in Japan"ではなく"made by Japan"、「どこで作ったか」よりも「誰が作ったか」が重要になった時代だ、という視点もあるように感じられます。それはそれで興味深いテーマでありますね。今回の日本文化論に加えて、あるいはより補強する形で述べられていそうです。このエントリをご覧になって興味を持った方はこちらにも手を出してみてはいかがでしょうか。





あと余談ですが、

今回のエントリ完成に至るきっかけをくれた(おおげさ)文化庁メディア芸術祭のテーマシンポジウム「キャラクター文化の行方 インターネット/N次創作後の展開について」ですが、Ustreamの方でアーカイブがあるようなので、興味ある方はこちらも是非。
(期間限定でリンク切れちゃってたらごめんなさい)





明治大学の森川嘉一郎さん、社会学者の濱野智史さん、シナリオライターの竜騎士07さんを演者に迎え、評論家の宇野常寛さんがファシリテーターを務めています。今回出てきた「ガラパゴス」や「価値の越境」といった話題も出てきます。テーマはもちろんオタク文化論であり、コミックマーケットやニコニコ動画に関する前知識がないとわかりにくいかもしれませんが……。
シンポジウム聞きながら時々メモとってましたけど、これさえあればその必要がないんですよね。便利な時代になったもんです。





それにしても随分長いし雑多になってしまった。やっぱりブログはその時の勢いでガーッと書いてしまうのが一番いいんだろうね。プロの物書きじゃないんだし。もっと気軽にいこ。



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